「会長のお昼にも、50人分の役員会にも。」— 国内トップの素材メーカーでフルーツが果たしていた“影の主役”
「“会長のお昼にも、50人分の役員会にも。」
— 国内トップの素材メーカーでフルーツが果たしていた“影の主役”
母が大手繊維化学企業で秘書を務めていた時代、フルーツはただの添え物ではなかった。
時には“場の空気を整える名脇役”として、時には“会長専用の特別メニュー”として、
食事の中にしっかりとした“役割”を持っていたという。
今回は、社内で果たしていたフルーツの“静かな存在感”について、聞いた話を記してみたい。
役員会には50人分のフルーツを
「役員会の昼食に、フルーツは必ず付いてた。」
1人分ずつ丁寧に盛られたカットフルーツは、日本を代表する繊維・化学メーカーの役員会に欠かせない存在だった。
人数は50人以上。
千疋屋へ電話一本で手配すると、旬を見極めた内容で個別パックされた果物が届く。
品目は、季節により変化する。
春はイチゴとキウイ、夏はメロンとスイカ、秋にはナシやブドウ。
冬には柑橘類が主役を張る。
「美味しい」ことはもちろん、口当たりや匂い、色味のバランスなど、
会議中の空気に溶け込む繊細な設計がされていたように思う。
会長の昼食には“特注”のメロンカット
母の話でもっとも印象深かったのが、「会長専用のメロンカット」の話だった。
昼食は簡素でも、必ずカットメロンを一切れ添えていた。
その厚み、角度、皮の残し方——
毎日ほぼ同じ形に整えられたメロンが、その日の“仕上げ”として並ぶ。
「ちょっとでも形が違うと、今日は切った人が違うなって分かるくらいだった」
その姿は、料理というより“儀式”に近いものがあったという。
フルーツは“空気をつくる”道具だった
「お昼の時も、会議の時も。
フルーツが出てくると、ちょっと安心するのよ。」
役員や来賓にとっても、カットフルーツがあるだけで空気がやわらぐのを、何度も見てきたと母は言う。
それは、食事そのものよりも、“その場の空気を整える”ことが目的だったのかもしれない。
味覚だけでなく、目で見て、香りで感じて、
ほんのひとときリラックスできる。
それが、当時母が仕えていた企業の中でフルーツが“影の主役”として存在していた理由なのだと思う。