「お見舞いは花かフルーツ」——秘書歴30年の母が語る、“外さない贈り物”の選び方

フルーツギフトの舞台裏

「お見舞いは花かフルーツ」——秘書歴30年の母が語る、“外さない贈り物”の選び方

「お見舞いはお花か果物。迷ったら、果物にしてたわね。」

そう話してくれたのは、私の母。
日本を代表する繊維・化学メーカーで30年間、秘書として働き続けた女性だ。
後に経営トップとなる人物が常務だった時代から、母は役員たちの分刻みのスケジュールをさばき、社内外の接遇を担ってきた。 それでも仕事が楽しくて仕方がなかったという。 当時お仕えしていた役員の方については「人間的にも素晴らしい方だった」と、今でも敬意を込めて語る。

そして、そんな母が贈り物として絶対に外さなかったのが、“フルーツ”だった。

贈り物に“果物”が選ばれる時代

昭和〜平成初期。
企業での贈答は、形式や礼節を重んじる大切な文化だった。

「お見舞いです」と言って訪れる際に持参するのは、必ず“お花かフルーツ”。
でも、生花は病室によっては制限されることがある。
だからこそ、“すぐに食べられて、華やかで、相手を選ばない”フルーツは、もっとも重宝されていたという。

とくに役員クラスの方々への贈答品では、失礼がないことはもちろん、“自分が選んだものが会社の顔になる”というプレッシャーもある。
そんなとき、母はいつもフルーツを選んでいた。

“秘書室の定番”だった果物

「お見舞いに贈るのは、だいたいメロンが入ってたわね。
年配の方が多かったから、柔らかくて食べやすいものをお願いしてた。」

当時は、まだマンゴーは一般的ではなく、旬の果物といえばクラウンメロンや巨峰などの定番が中心。
母はいつも、“贈る相手の好みはわからない”からこそ、“誰でも安心して食べられる果物”をお店に相談して選んでもらっていたという。

今のように「この人はいちごが好き」と細かくパーソナライズされる時代ではなかった。
それでも、果物の清潔感ややさしさは、贈る相手の心にちゃんと届いていた。

“間違いのない贈り物”の象徴だった

母が何より信頼していたのは、「フルーツは生ものだからこそ、プロに任せる」という考え方。
だからこそ、千疋屋や万惣といった老舗の果物店に全幅の信頼を置いていた。

「予算と相手の立場を伝えれば、千疋屋が最適な内容を整えてくれる。
それが“間違いのない贈り物”になるって、みんな思ってたの。」

その“間違いのなさ”こそ、果物という贈り物が、長年愛され続けた理由だ。

そして今、果物の価値をどう届けるか

果物は、単に“食べ物”ではなく、“想いを届ける文化”の一部だった
それを30年の現場で経験してきた母の言葉から、私はあらためて感じた。

この文化を、今の時代に合わせて届け直すにはどうすればいいか。
フルーツブーケという新しい形で、もう一度この価値を社会に届けたい。
そんな想いを込めて、この連載を始めます。

▶ 次回予告:「“間違いない”と信じられていた老舗の存在感」
— 千疋屋・万惣が担っていた“信頼”の舞台裏とは?